大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)19号 判決

原告 田島斎

被告 長崎県選挙管理委員会

補助参加人 中岡秀蔵

主文

原告の請求を棄却する。

本訴訟の訴訟費用は被告の負担とし、参加によつて生じた訴訟費用は被告補助参加人の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「昭和二十六年四月二十三日執行の島原市長選挙における当選の効力に関し被告のなした同年八月十四日付訴願裁決を取消す。右選挙による中岡秀蔵の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする」という判決を求め、その請求原因並びに被告の抗弁に対する主張として別紙記載のとおり陳述した。(証拠省略)

被告代表者は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」という判決を求め、被告代表者及び被告補助参加代理人は答弁並びに抗弁として別紙記載のとおり陳述した。(証拠省略)

理由

本訴は昭和二十六年四月二十三日執行の島原市長選挙における当選の効力に関し被告が同年八月十四日なした訴願裁決を取消して右選挙による中岡秀蔵の当選を無効とする旨の判決を求めるものであるが、何人が正当の当選人であるにしても、該選挙による島原市長の任期は地方自治法第百四十条、公職選挙法第二百五十九条により右選挙の日から起算し四年を以てすでに満了したこと明らかである。従つて右訴願裁決の取消並びに当選無効の判決を求める実益はなくなつたものといわなければならない。よつて原告の本訴請求はこれを棄却すべきものである。

次に訴訟費用の負担について審案するに、成立に争のない甲第三号証、甲第八号証の九、十一及び十二、甲第十号証の二、甲第十一号証の二及び三、甲第二十六号証の四及び六、甲第二十七号証の二乃至五、甲第二十八号証の二、甲第五十三号証の二、第五十五号証の二、乙第三十一乃至第三十八号証、乙第四十五乃至第四十七号証を綜合すると、本件選挙について第二、第三及び第五乃至第十投票所において参会した投票立会人はそれぞれ三名であつたところ、それらの投票立会人が一名又は二名宛代理投票の補助者となり、しかも投票管理者は投票立会人を補充しないまま代理投票及び一般投票を続行し、かようにして右各投票所を通じ代理投票及び一般投票を合せて少くも五〇〇票を下らない投票を行つたことが認められる。凡そ投票立会人と代理投票の補助者はその職務の性質上同時に兼務することを許さないものと解するのが相当であるから、投票立会人が代理投票の補助者となり他の投票立会人の数が三名に満たない場合には投票管理者は投票立会人を補充しなければならないにかかわらず、右各投票所の投票管理者がこれを補充しないで代理投票及び一般投票を執行したことは公職選挙法第三十八条第二項に違反するものといわなければならない。又成立に争のない甲第二十六号証の二乃至六、甲第二十七号証の二、四、及び五、甲第二十八号証の二、甲第三十二号証の二乃至四、甲第三十三号証の二、甲第五十五号証の二、及び三、甲第五十七号証を綜合すると、第一乃至第十投票所の各投票管理者は公職選挙法第四十一条により投票所を告示しなければならないのにその告示をなさず、又選挙長は同法第七十八条により選挙会の場所及び日時を告示しなければならないのにその告示をなさなかつたことが認められる。そうして叙上認定の各違法は本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものと認められる。従つて本訴は当選の効力を争う訴訟ではあるが同法第二百九条により本来職権を以て本件選挙の全部について選挙無効の判決をなすべき場合であるから、民事訴訟法第九十条、第九十四条に従い本訴訟の訴訟費用は被告に又参加によつて生じた訴訟費用は被告補助参加人にこれを負担させるのを相当とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 森静雄 竹下利之右衛門 高次三吉)

原告の請求原因及び被告の抗弁に対する主張

一、原告は昭和二十六年四月二十三日執行の島原市長選挙における選挙人である。右選挙において選挙会は候補者中岡秀蔵を当選人と決定しその旨告示した。原告は同年五月一日島原市選挙管理委員会(以下市委員会と称する)に対し右当選の効力に関する異議の申立をしたところ、同委員会は同月二十六日付を以て異議を却下する旨の決定をした。よつて原告は更に同年六月十六日被告に対し訴願を提起したところ、被告は同年八月十四日付を以て訴願を棄却する旨の裁決をなしその裁決書は同月十六日頃原告に交付された。

二、しかし中岡秀蔵の当選は以下述べる事由によつて無効である。

(1) 市委員会の委員長光永勇三以下各委員は選挙の管理執行に無関心で選挙に関する智識経験もなく、委員会の会議は二回開いただけでしかもその会議も実際上下部職員によつて運営され、市委員会又は委員長はその一切の権限を挙げて市委員会書記伊藤昇その他の下部職員に一任し、選挙当日の如きは委員長以下全委員は長時間事務所を留守にして料理店で酒食をともにし、そのため訴外鵜殿長寿恵等から当日の代理投票の執行に違法の点があることを指摘し緊急対処方を要望したにかかわらず実効ある措置をとることができなかつた。又光永委員長は公職選挙法施行令(以下令と称する)第五十六条、第五十八条による不在者投票について投票管理者であるにかかわらず、そのようなことさえ知らず全く不在者投票の管理を怠つた。

このように本件選挙については委員会又は委員長の選挙管理が行われなかつたので九〇七票の不在者投票は無効であるのみならず以下述ぶるような多種多様の違法が行われた。

(2) 市委員会の職員、選挙長、開票管理者、投票管理者、それらのものの代理者及び投票立会人等の選任については、立候補届当時なお島原市長であつた候補者中岡秀蔵及び同市助役陶山源その他のものが市委員会書記長高木長義等に働きかけて内選した上その案を形式的に市委員会に付議し、市委員会はこれを鵜呑みにして決定したものである。その結果その選任されたものはすべて中岡候補側近の市吏員及び同候補者と特殊関係にある市民で占められた。しかもこれらのものは派閥的集団を形成し中岡候補のため組織的選挙運動をなし、同候補者は当選の告示後間もなく選挙の論功行賞として大掛りな市吏員の進級異動を行つた。

(3) 市委員会事務局職員中、書記長高木長義は島原市総務課長としての本務が多忙で選挙事務の統括が不充分であり、書記伊藤昇及び書記補本田行寛は公平を欠き且つ選挙の智識経験がないのに、市委員会又は委員長はこれらのものを改任せず、又事務局及び各投票所の補助職員も選挙に全く素人でその執務は乱雑を極めた。しかも補助職員、投票管理者その他の関係職員は権限のない下部職員によつて委嘱されたものである。従つて事実上これらのものによつて管理執行された本件選挙は無効である。

(4) 伊藤書記及び本田書記補は市委員会の補助職員に過ぎないのに、投票所、開票所及び選挙会の日時場所の指定、投票用紙等の調製、受払並びに市委員会及び委員長の公印の使用等を独断専行した。又右投票用紙等の取扱について慣行に反し何等の記録も留めてないため後述のような不正が行われるに至つたのである。

(5) 令第五十六条による不在者投票について投票立会人を選任した事実なく又事実上立会つたこともないにかかわらず、係職員は不在者投票用封筒に勝手に自己又は他人の氏名を投票立会人として記載した上これを各投票所の投票管理者に送致し、以て該管理者の不在者投票の受理不受理の審査を妨げた。

(6) 伊藤書記及び本田書記補等は、請求資格その他の所要事項を審査しないで不在者投票用紙を交付し、又不在者投票の正否その他所要事項を審査しないで不在者投票を受領したため、後記のような幾多の違法を惹起した。

(7) 係職員は昭和二十六年四月三日から同月二十二日までの間に受領した不在者投票を事務机の上や開閉自在な机の抽斗等に放置し、正確な保管をしなかつた。

(8) 係職員は不在者投票用紙請求書又は不在者投票に関する証明書もしくは疏明書を提出させないで選挙人清水タケ等七名に不在者投票用紙及び同投票用封筒を交付し、以て不正投票を行わせた。

(9) 一部有権者、候補者、運動員及び市吏員等が不正行使の目的で不在者投票用紙の請書用紙を一人で数枚乃至数十枚請求したのに、係職員は故意又は不用意にその請求に応じ、その結果不在者投票用紙の請求交付について不正が行われた。

(10) 令第五十六条によりなされた不在者投票の数は二九三票であるが、伊藤書記及び本田書記補等はその投票場所を一定しないで勝手に変更し且つ投票場所に令第三十二条に適合する設備をなさなかつたため、不在者投票が公正に行われなかつた。

(11) 令第五十八条の不在者投票について、同居親族でないものが同居親族を装い、又は係職員の故意過失に乗じ、もしくは不合法の医師の証明書又は事実に反する疎明書によつて不在者投票用紙及び同投票用封筒の交付を受けたものが不正の投票をなし、しかもその投票には適当の外封筒を用いてないにかかわらず、係職員は選挙運動員と通謀の上これらの投票を受領し、不在者投票に関する調書には当該事項を記載していない。

(12) 令第五十六条による不在者投票について、選挙人原正春が不在者投票用紙等を投票記載場所以外の場所に持出して投票の記載をした上係職員にこれを提出したところ、係職員はその違法を傍観しながら右投票を受領しこれを合法の投票と同様に処理した。

(13) 投票者松本大次郎及び増田徳市の両名が令第五十六条の規定による不在者投票をする際、係職員は右両名が不在者投票用封筒に封緘することを阻止し開封のままこれを提出させた。この外にも同様の事実が多数ある。係職員はその後右封筒を封緘して合法投票のように装い、不在者投票に関する調書には当該事項を記載しないで合法投票と同様に処理している。このよう状態では投票の抜替その他の不正が行われなかつたとはいえない。

(14) 令第五十八条による不在者投票について、投票用紙請求書に添付された医師の証明書には文盲、盲目、精神病、耳目障害等の事由を記載してあつて、これらの事由は同条所定の不在者投票事由に該当しないことが明らかであるにかかわらず、係職員は悪意でこのような選挙人六十六名に対し不在者投票用紙及び同投票用封筒を交付し、その交付を受けたものはこれらの用紙及び封筒を以て不正の投票をしている。これらの投票はもとより無効である。

(15) 令第五十八条所定の歩行困難者は不在者投票所において投票すべきものではないにかかわらず、選挙人秋崎スミ等五名は不正選挙運動員とともに市委員会に出頭し自身で同条による不在者投票を提出し、又選挙人松崎ハル及び前田ハツと同居の親族でないものが同時に二個の不在者投票を提出したのに、係職員は悪意でこれらの投票を受領し、不在者投票に関する調書には当該事項を記載せず又は虚偽の記載をして有効投票と同様に処理している。これらの投票ももとより無効である。

(16) 令第五十八条による不在者投票で適当の外封筒を用いないものが五九六票ある。係職員はこれらの投票をそのまま受領し、封緘しないで提出された不在者投票用封筒は後日これを封緘し、不在者投票に関する調書には当該事項を記載しないで有効投票と同様に処理している。これらの投票も無効である。

(17) 第八投票所の投票監視員及び代理投票補助者になつた市扶養係加藤勇はその職務上の地位を悪用して被扶助者約三〇〇戸に対し中岡候補のため投票依頼の運動をした。

(18) 係職員は不在者投票用封筒に記載事項及び公印の欠けたものが多数であつたのにこれらの封筒に勝手に追記追印して完全な投票のように装い、不在者投票に関する調書にはそれらの事項を記載していない。これらの投票ももとより無効である。

(19) 係職員は光永委員長の決裁を受けないで専断を以て九〇七票の不在者投票を各投票所の投票管理者に送致し、且つその送致については送致用封筒を用いず送致担当者の氏名も明らかにせず、又送致を受けた投票所ではその投票受領につき何等の記録もとつていない。このような状態では投票の亡失その他の不正が行われなかつたとはいえない。要するにこれらの投票送致は不適法であるからその投票は無効である。

(20) 令第五十条第四項所定の同居の親族であることを明らかにするための疎明書五七五通中各人の自署したものは一割内外であつて、その他は係職員等が代筆したものである。このように代筆が多きに過ぎる点から推してこれらの疎明書は係職員等が偽造したものと断定することができる。又疎明書の記載事項は不在者投票用封筒及び不在者投票に関する調書の記載事項と合致しないものが多い。このような状態では多数の不正投票が行われなかつたとはいえない。

(21) 光永委員長は不在者投票に関する調書の作成に全然関与せず同調書は下部職員によつて作成されたものである。又同調書には不在者投票管理者の署名を欠き且つ同調書の記載内容は医師の証明書及び疏明書と合致せず、不正行為の伏在することが推定される。従つて同調書は不在者投票の受理不受理を決する審査資料となし得ないから九〇七票の不在者投票は無効である。

(22) 九〇七票の不在者投票中不在者投票用封筒の現存するのは八〇一枚であるが、この八〇一枚中七八四枚は以下述べるとおり法定の要式に適合していないから当該投票は無効である。

(い) 令第五十六条による不在者投票二九三票中不在者投票用封筒の実在するものは二六〇枚で、しかもその封筒の約八割は何者かによつて不正記載された同一人の筆跡である。その他の実在封筒の記載も数枚乃至数十枚が同一人の筆跡と認められる。

(ろ) 同一封筒の記載事項中同一人の筆跡でなければならない事項の記載が数人によつてなされたと認められるものが二一枚ある。

(は) 不在者投票用封筒の裏面に令第六十条所定の投票の年月日及び場所の記載を欠くものが七八四枚ある。

(に) 不在者投票用封筒に令第六十条所定の不在者投票管理者の記名を欠くものが三九七枚ある。

(ほ) 不在者投票用封筒に令第五十八条所定の投票記載の年月日及び記載場所を欠くものが一四五枚ある。

(へ) 医師の証明書によつて文盲、盲目その他不在者投票能力のないと認められるものの不在者投票用封筒が六六枚ある。

(と) 本件選挙は島原市議会議員選挙と同時に執行されたのであるから、同一投票者の両選挙の不在者投票用封筒の筆跡は同一でなければならないのに、両者その筆跡を異にするもの並びに両選挙の不在者投票立会人及び投票の代理記載人の異るものが合計二九枚ある。

(ち) 令第五十八条による不在者投票で不在者投票用封筒に表示された代理記載人が同居の親族でないのに同居親族と装つたものが三四枚ある。

(り) 令第五十六条による不在者投票用封筒に投票立会人の表示のないもの及び令第五十八条による不在投票用封筒に不必要な投票立会人の表示のあるものが合計三一枚ある。

(ぬ) 令第五十八条による不在者投票用封筒に代理記載人の住所の表示のないもの及びその表示された住所が事実と異るものが合計四七枚ある。

(る) 不在者投票用封筒に記載している投票の年月日及び投票者の住所が不在者投票に関する調査の記載と異るものが合計四九枚ある。

(を) 不在者投票用封筒に同一投票立会人の氏名を表示したものと認められるもので、他人によつて記載されたため氏名の文字を異にするものが二八枚ある。

(わ) 不在者投票用封筒に記載してある投票記載の年月日が不在者投票期間外の年月日となつたものが二八枚ある。

(か) 文盲、盲目その他不在者投票能力のないと認められるものの不在者投票用封筒が三〇〇枚ある。

(よ) 不在者投票九〇七票中、不在者投票用封筒の記載が疎明書及び不在者投票に関する調書の記載と投票の年月日、選挙人及び不在者投票事由等において一致しないものが四〇四枚ある。

(23) 伊藤書記及び本田書記補等は本件異議申立後島原市警察署の捜査中昭和二十六年五月十日頃同警察署から不在者投票用封筒その他の書類の提出を求められたところ、一夜のうちに不在者投票用封筒の全部を再調査しその大部分について記載事項の欠けたものを補充記載し公印の欠けたものを追印し又は不在者投票用封筒の書替をした。しかも本訴において原告の申請に基き裁判所から市委員会に対し不在者投票用封筒の送付嘱託をしたところ、伊藤書記等は故意にその封筒の一部を残して送付しなかつた。これらの事実は選挙無効原因の発覚を怖れたものと信ぜられる。

(24) 市委員会において選任した第七投票所の投票立会人は古瀬わき、谷口善治、豊永正義の三名であるが(その選任が正確な意義での選任でないことは前述のとおりである)、そのうち豊永は投票開始時刻に遅刻したため投票管理者森本軍治は山中藤市を投票立会人に選任補充した。従つて豊永は当然投票立会人たる資格を失つたにかかわらず、同人は五分乃至十分遅れて出席するや投票立会人席に着席し山中は退席してしまつたので、その後の投票はすべて古瀬、谷口、豊永の三名立会のもとに行われた。従つて豊永の出席後における投票二一六票は正規の投票立会人二名と非正規の投票立会人一名の立会によつて行われたものであるから無効である。

(25) 第八投票所の投票立会人は第七投票所と同様の方法で高木広太郎、吉田松蔵、近藤東海の三名が選任された。しかし近藤は出席しなかつたので同投票所における三、六五九票の投票はすべて高木及び吉田の二名の立会によつて行われた。もつとも岡野哲子も投票立会人席に着席していたけれども同人は正規の投票立会人ではない。従つて右投票は全部無効である。

(26) 投票管理者又は投票立会人は代理投票の補助者を兼ねることができないにかかわらず、第二乃至第十投票所においては投票管理者及び投票立会人が代理投票の補助者となつて合計二七三票の代理投票を行い、しかもその間補助者となつた当該投票管理者及び投票立会人は本来の職務をとらないで一般投票をそのまま続行した。その一般投票数は約千票に達するものと推定される。これらの代理投票及び一般投票はいづれも無効である。

(27) 第一乃至第十投票所の投票管理者はいづれもその職務について全く無智で職務遂行の熱意もなく公職選挙法(以下法と称する)第三十九条、第四十一条所定の投票所の指定及びその告示をした事実もない。

(28) 各投票所の投票管理者及び投票立会人はその職務について全く無智怠慢であつたため、市委員会から送致された不在者投票について受理不受理の審査をしないでその投票を全部投票箱に投入したのであるから、九〇七票の不在者投票はこの点においても有効投票とみることはできない。

(29) 各投票所の投票録は以下述べるとおりその記載が正確ではない。

(い) 第二投票所の代理投票補助者は林田鉄美、早稲某及び松本某の三名であつたのに、投票録には林田鉄美及び坂本利兵の二名を記載している。

(ろ) 第三投票所の投票録には不在者投票の総数、受理、不受理の数を記載していない。

(は) 第四投票所の代理投票補助者は本田兼義、上田昌良外四名であつたのに投票録には上田昌良及び北野正雄の二名を記載している。

(に) 第五投票所の代理投票数は三、四十票であつたのに投票録には九票しか記載していない。

(ほ) 第八投票所の代理投票数は投票録記載の数よりも遙かに多かつた。又投票録の代理投票補助者の表示は事実と相違する。

(へ) 第九投票所の代理投票数は三、四十票あつたのに投票録には十四票しか記載していない。又投票録には不在者投票六十九票は不受理と記載しているが、事実は六十九票全部を無審査のまま受理決定を経たものと同様に処理している。

(30) 選挙人松崎スミ名義で二度も投票させたのは投票管理者及び投票立会人の無責任も甚だしい。

(31) 選挙長は法第七十八条により予め選挙会の場所及び日時を告示しなければならないにかかわらず、選挙長高木長義はその告示をしていない。

三、本件選挙の結果当選人と決定され島原市長に就任した中岡秀蔵が昭和三十年四月二日退職したことは知らない。仮に退職したとしてもそのため本訴が判決を求める利益を欠くことにはならない。

被告及び補助参加人の答弁及び抗弁

一、原告主張の一の事実は認める。

二、原告主張の二の(1)乃至(31)の事実に対する被告等の答弁はそれぞれ次のとおりである。

(1) 市委員会の会議について議事録が作成されたのは二回だけであるが会議は実際上四、五回開催した。委員長及び委員等が選挙当日昼食の際酒を飲んだことは認める。その他の主張事実は否認する。

(2) 投票管理者、選挙長及びそれらのものの職務代理者が全部島原市吏員から選任されたこと及び選挙関係の補助職員を同市吏員に委嘱したことは認めるが、その他の事実は否認する。

(3) 伊藤書記及び本田書記補が主として本件選挙事務に従事したことは争わない。原告主張の各職員はそれぞれ法定の権限を有するものによつて選任委嘱されたものである。その他の事実は否認する。

(4) 伊藤書記及び本田書記補は投票管理者又は選挙長の指示を受けてそれぞれ投票所並びに選挙会の場所及び日時を指定告示し、又委員長の口頭の承諾もしくは決裁印を受けて諸用紙の調製、受払をなし公印を使用したものである。諸用紙の取扱についてはこれまでも記録に留めた例はない。その他の事実も否認する。

(5) 不在者投票立会人は委員長の指示に基き係職員が選挙事務従事者の中から選任して立会わせたのであつて、原告主張のような事実はない。

(6) 原告主張の事実は否認する。

(7) 原告主張の事実は否認する。

(8) 原告主張の事実は否認する。

(9) 不在者投票用紙の請求用紙を若干一括交付した事実はあるが、元来右請求用紙は選挙人が自ら作製すべきものを市委員会が便宜上作製して備付けていたものであるから、その用紙を一括交付しても不法ではない。

(10) 当時の島原市庁舎は狭隘で一定の場所に不在者投票の記載場所を設けることは不可能であつたため、不在者投票管理者たる委員長の承諾を得て記載場所を変更したのである。その他の原告主張の事実は否認する。

(11) 不正な方法で不在者投票用紙等の交付を受けたものがあつたことは市委員会としては後日これを知つたのであつて、係職員にはそのことに関し何等故意過失はない。外封筒を用いない不在者投票を受領した事実は認めるが、外封筒がなくても不受理とすべきものではないから受領したのである。

(12) 選挙人原正春が不在者投票用紙を所定の投票記載場所以外の場所に持出して投票の記載をしたことは認めるが、当日は不在者投票をするものが多く且つ原正春は市吏員であつたため係職員も幾分注意を欠いたに過ぎない。

(13) 原告主張の事実は否認する。開封のまま提出したものは、受付のとき発見した場合は提出者の面前で、その後発見した場合は数人の事務者の面前で、直ちに封を施したのであるから、その間不正の行われる余地はない。

(14) 医師の証明書であるから間違はないと信じて投票させたのであつて、係職員に悪意又は不正はない。

(15) 原告主張の事実はいづれも知らない。

(16) 前記(11)及び(13)について述べたと同様である。

(17) 原告主張の事実は否認する。

(18) 補筆したことは認めるが、それは選挙人の依頼によるものである。公印を押印したことはあるが、それは選挙終了後整理する際押印したものである。

(19) 不在者投票は委員長の承認のもとに不在者投票に関する調書とともに送致したものであつて、送致用封筒の様式は法令に定められてないから大きな紙で厳重に包装した上二人又は三人で輸送したのであるから、不正が行われた事実は全然ない。

(20) 同居親族であることの疎明書については法令に規定はないが適正を期するため市委員会において便宜疎明書を作成したのであるから、代理記載をしても差支はない。疎明書の記載が不在者投票用封筒及び調書の記載と一致しないものがあるのは事務多忙のために生じた誤記である。

(21) 光永委員長が各投票所を巡視するため不在中各投票所への送致時間が切迫したので、やむなく署名に代ゆるに公印を以てしたもので、その間何等の不実不正の記載はない。

(22) 使用済の不在者投票用封筒の一部が現存しないのは、第九投票所において後始末する際不用品と誤認して焼却したり、証拠品として警察署え提出したのを警察署から返還する際紛失したためである。

(い) 不在者投票用封筒の記載事項中投票の年月日、住所及び記載場所は提出者に代り係職員が記載したので同一筆跡のものがあるのであつて、何等不正はない。

(ろ) 氏名以外の記載事項を係職員が提出者に代つて記入したので同一筆跡でないものがあるのである。

(は) 不在者投票用封筒の裏面に記載すべきものを誤つて表面に記載したのが若干あるけれども、それは差支ないことである。

(に) 令第五十八条による不在者投票については不在者投票用封筒の裏面の記載は必要ではないから、記名がないのは当然である。

(ほ) 仮に原告主張のような記載を欠いた不在者投票用封筒があつたとしても無効ではない。

(へ) 老衰者は必ずしも投票能力がないわけではなく、その他は医師の証明書であるから不在者投票能力があると信じて投票させたのである。

(と) 両選挙の封筒に原告主張のような相違もあり得ることであるし、あつても違法ではない。

(ち) 原告主張の事実はこれを争う。

(り) 投票立会人を要する場合に不在者投票用封筒に投票立会人を表示してないものがあつても、投票立会人は実際立会つていたのであるから有効な投票である投票立会人を要しない場合に不在者投票用封筒に投票立会人を表示しているのは係職員が誤つて記載したものであるからこれ亦有効な投票である。

(ぬ) 原告主張のような事実があるとしても、代理記載人の氏名は記載してあるから有効な投票である。

(る) 不在者投票用封筒に記載している投票の年月日が調書の記載と異るものがあるとすれば、それは選挙人が封筒に誤載したものである。選挙人の住所の記載は必要ではないから、その記載が異つていても差支はない。

(を) 仮に原告主張のような事実があるとしても実質上同一立会人が立会つているのであるからその投票は有効である。

(わ) 投票記載の年月日が不在者投票期間外になつているのは選挙人が記載を誤つたものである。

(か) 前記(へ)について述べたと同様である。

(よ) 投票の年月日の記載の相違については前記(わ)について述べたと同様である。選挙人の氏名の記載が異つているのは疏明書には通称を記載し、不在者投票用封筒及び調書には、選挙人名簿に登載された氏名を記載したものである。不在者投票事由は調書のみに記載すべきものであるから他には記載していない。

(23) 不在者投票用封筒を警察署に提出する際、その封筒が市庁舎移転のため混乱していたのでこれを整理するにあたり若干補筆補印したことは認めるが、それは選挙終了後のことであるから差支えない。又不在者投票用封筒を裁判所に提出する際その一部の提出が遅れたのは、刑事々件のため検察庁に提出していたのを返送された際これを受領した係員がその直後他課に転籍したので他の封筒と同一個所に保管されてなかつたためである。その他の原告主張の事実は否認する。

(24) 投票立会人豊永正義が投票開始時刻に遅刻したことは認めるが、投票管理者が投票立会人を補充したことによつて遅参した投票立会人が失格したものではない。補充立会人山中藤市は豊永正義の出席後投票管理者の命により豊永と交替したのであるから何等違法の点はなく投票立会人の定数を欠いた事実はない。

(25) 投票立会人に選任されていた近藤東海は中岡候補の選挙運動に従事することが判明したのでその選任を取消して他のものを選任したが、そのものの承諾が得られなかつたので、投票日の前日のことでもあつたから光永委員長において市委員会の議決に基き岡野哲子を選任したのである。

(26) 第二、第三、第五乃至第十投票所において投票管理者が代理投票の補助者になつたことはないが、常時立会つていた投票立会人一名又は二名が臨時に代理投票の補助者になつたとしても、それは違法ではないし投票立会人の職務を放棄したものでもない。その間何等不正の事実もないから無効原因とはならない。

(27) 投票所の指定及びその告示は投票管理者が係職員に命じてこれをさせたのであるから違法はない。その他の原告主張の事実は否認する。

(28) 不在者投票に若干の瑕疵はあつたかもしれないが、充分審査の上無効とすべき重大な瑕疵はないので選挙人の意思を尊重して受理したものである。その他原告主張の事実は否認する。

(29)(い) 多忙で且つ急を要したため投票録の記載を簡略にしたものである。

(ろ) 他の欄に記載した数であるから更に記載する必要がないとして記載しなかつたのである。

(は) 前記(い)について述べたところと同様である。

(に) 原告主張の事実は否認する。

(ほ) 原告主張の前段の事実は否認する。後段の補助者の表示が事実と相違しているのは投票録の記載の誤である。

(へ) 投票録の代理投票数に関する記載は誤記であつて、不在者投票の不受理数に関する記載は受理欄に記載すべきものを誤つて不受理欄に記載しているのである。

(30) 原告主張の「松崎」というのは「秋崎」の誤りと認められるが、同人が二度投票した事実はない。

(31) 選挙会の場所及び日時の告示は適法になされている。

三、本件選挙の結果当選人と決定され島原市長に就任した中岡秀蔵は昭和三十年四月二日退職した。従つて本訴は判決を求める利益を欠くものである。 以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例